大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)3544号 判決
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〔判決理由〕一 原告が本件実用新案の実用新案権者であること、その登録請求の範囲には、「図面に示すように、ホーク1体と抑え板2とを各その基部に設けた突片34によつて枢着5すると共に、その枢着部内面に弾機6を装設し、抑え板2には、通気孔7を設け、かつ内面中央と周縁とにそれぞれ内向の突起9および10を突設して成るセッテングパーマ器の構造」と記載されていること、被告が現にイ号物件の製造販売をしていることは、いずれも当事者間に争いがない。
二 本件実用新案の右登録請求の範囲の記載ならびに<証拠>(実用新案公報)によると、本件実用新案の考案の要旨はつぎの特徴からなるセッテングパーマ器と認められる。
(1) ホーク体と抑え板とを各その基部に設けた突片によつて枢着すると共に、その枢着部内面に弾機を装設すること
(2) 抑え板には通気孔を設けること
(3) 抑え板の周縁に内向の突起を突設すること
(4) 抑え板の内面中央に内向の突起を突設すること
被告は本件実用新案出願当時右(1)、(2)の技術は公知であつたと主張するけれども、たとえそうであつたとしても、この事実は本件実用新案構成要素の右認定を左右するものではない。
三 イ号物件を本件実用新案の右特徴と対比すると、両者は前記(1)ないし(3)の点において全く共通し、本件実用新案の(4)の特徴に対応するイ号物件の部分は抑え板の内面中央に内向の短管状の突起を突設し更にこれを囲むようにした数個の針突起が突設せられている。
四 <中略>
(本件実用新案公報)によると、その登録請求の範囲にはスポンジ板の使用につき触れるところがないけれども、本案器はその使用にあたり、中心孔を有するスポンジ板をホーク体と抑え板との間に介在させることを予定していることは明らかなところであり、本案セッテングパーマ器において、抑え板の内面中央と周縁とにそれぞれ内向の突起を突設せしめたのは、中央と周縁との各突起の間にスポンジを納れ、介在スポンジ板の位置とその保持の安定を期する上に役立たしめんとするものであることが認められる。そうすると、中央突起の作用効果は、右突起が周辺突起と共に、これらが設けられている抑え板と一体となりスポンジ板を介し、ホーク体との間で、スポンジ板とホーク体との間に挾んだ渦巻毛体の形状をそのまま保持せしめるにあることは疑いを容れない。
ところで、(イ)号物件においては、抑え板の周縁に数個の突起が設けられているほか、短管状の中央突起とこれを周むようにして数個の針突起が抑え板に設けられている。この構造からすれば、右短管状中央突起ならびにこれを囲む針突起は、抑え板周縁の突起とともに、抑え板と一体となり、針突起と周縁突起との間にはめこんだ巻毛を保持し、ホーク体との間で挾持する作用効果を有することは見易き道理である。右器具を使用する際、毛を平面的な渦巻にしたうえこれを使用するか、被告主張のごとく立体的な渦巻にしたうえこれを使用するかは、パーマをかける際に用いる技術の差異に過ぎず、その器具の構造における突起の客観的作用効果に関するものではないと考えられる。したがつて、(イ)号物件の突起の作用効果は本件実用新案における突起のそれと同一であると認むべきである。
被告は、「本件実用新案はスポンジ板を介在させて使用することを前提とするに反し、(イ)号物件は原則としてスポンジ板を使用せず、毛の少い人の場合にスポンジ板を使用することがあるに過ぎない」と主張するが、(イ)号物件あるいは本件実用新案による器具に、スポンジ板を使用した場合とこれを使用しない場合とでは、突起がスポンジ板を介して巻毛を保持するか、直接巻毛を保持するかの差異を見るだけで、突設せしめた突起の本質的作用効果には両器具とも差異がないと認めるべきである。
被告は、「本件実用新案の構造を具えた器具は、本件実用新案の名称がセッテングパーマ器であり、その公報の実用新案の説明欄中にも、本案器は従来のセッテングのようにロッドクリップから挾みクリップに捲替えるための二段の手数と時間とを要する等の欠点を克服したもので、右作業の必要なく、本案器だけで一挙にパーマ操作を完了することができる旨記載されているが、(イ)号製品はパーマの段階においてのみ使用されるもので、セッテングの際にはこれを別の器具に取り替えるものであるから本件実用新案の考案とは異る」旨主張する。しかし、(イ)号物件が本件実用新案権を侵害するものであるかどうかを判断するにあたつては、(イ)号物件の構造に本件実用新案の構成要素が一体となつて具はつているかどうかを検討すれば足りる。もしこれを肯定することができるときは、実用新案権者はその考案につき排他的実施権を有するのであるから、たとえ(イ)号物件が本件実用新案の構造のほか、たとえば附加的構造を有するため、本件実用新案に期待し得ないような作用効果を有するとしても、(イ)号物件が本件実用新案権の侵害品であることを否定することはできない。ところで、前顕公報には本案器が被告主張のように一挙にパーマ操作を完了することができる旨の記載があり被告は(イ)号物件を被告主張のとおり使用していることは証人関口美代子、同西森文子の各証言、取下前の被告田村八千代本人の供述によつて認められるけれども、(イ)号物件において、短管状中央突起がこれを囲む針突起と不可分の一体となり、本件実用新案における中央突起の作用効果を全く果さないと断定するに足る証拠は本件にない。
そして右公報には抑え板の中央突起につき、図面の第二、三図にいぼ状の突起が図示してあるほか、突起の形状を限定したなんらの記載がなく、右いぼ状の図示は一実施例と解すべく、その前記認定の作用効果に徴して右中央突起は短管状のものを含むと解すべきである。
以上の事実によると、(イ)号物件の針突起は本件実用新案の技術的範囲という観点よりすれば、単なる附加に過ぎず、同物件は本件実用新案の前記(1)ないし(4)構成要素たる特徴のすべてを具えていると認むべきである。したがつて、被告の右物件の製造販売行為は原告の本件実用新案権を侵害するものといわなければならない。
五 さらに、被告は田村泰子こと田村八千代の有する意匠権に基づく製造販売であることを理由として、(イ)号物件の製造販売が適法であるかの如き主張があるが、<証拠>によつてみるも、右の登録意匠は昭和三九年一一月一九日の出願にかかるものであつて、本件実用新案が出願された後の出願であることは明らかであるから、(イ)号物件が右の登録意匠について実施しているものであるかどうかについて、判断するまでもなく、その主張は理由がない。
六 よつて、被告に対し(イ)号物件の製造販売行為の差止を求める原告の本訴請求を理由ありとして容認……する。(大江健次郎 田倉整 池田良兼)